なぜ進学校で「実社会」と関わる探究活動が重要であるのか? インターンシップまで実施するのか?
日本の現状は大変厳しいものとなっています。例えば,経済に目を向けると,1990年代半ばより,内戦等の特別な事情が無い国では日本だけが経済成長できておらず,GDP世界シェアは約20%から約5%にまで落ち込んでおり,さらに昨今のスタグフレーションにより,国民全体の貧困化は進み,少子化,地方の過疎化,インフラの劣化も深刻なものとなっています。また,世界的に軍事的緊張も高まりつつある中で食料自給率,エネルギー自給率は先進国最低水準であり,能登半島地震の復旧も停滞する一方で南海トラフ地震・首都直下型地震等の未曽有の大災害も迫りつつあります。
その一方で,現代の若者の社会参画意識は非常に低いのです。日本財団が2022年に実施した「18歳意識調査」によると,「自分の行動で,国や社会を変えられると思う」若者は26.9%,「政治や選挙,社会問題について,積極的に情報を集めている」若者は29.3%であり,諸外国と比べて約半分程度の極端に低い数値になっています。投票率についても,令和4年の参議院選挙の10代,20代においてはそれぞれ35.42%,33.99%であるなど,国政選挙,地方選挙のいずれも全体として低下傾向にあり,若年層はさらに低いのです。
また,群馬県のいわゆる「進学校」と呼ばれる学校現場においては,未だに偏差値偏重主義とも言える目先の大学受験の筆記試験の得点だけを意識した学習(答えの用意された問題を,速く正確に解く訓練)に偏った指導が残っており,多角的な視点で情報を収集・分析して自ら課題を見つけ解決策を考えていくことや,自分自身の興味関心や社会課題に真に向き合い将来の生き方を考えていくことが,重視されているとは言えない状況が続いています。
以上のような背景を踏まえて,人生の岐路とも言える高校時代に,実社会と関わりながら,自己の在り方生き方,よりよい社会の在り方を考え,実際に地域社会に貢献し,将来の進路選択に結びつける探究活動を実施していくこととなりました。
そこで,社会の最前線で課題解決を実践し,よりよい社会を築いている企業の経営に携わる方々を「探究活動の大先輩」と捉え,その実践発表を聞く「社長探究発表会」,さらに最も興味関心のある社会問題に対し,企業等がどのようなアプローチをしているのかを分析し,その裏にはどのような想い,ドラマがあるのかを体験し,自分自身の生き方や在り方を考えていく「探究型インターンシップ」を4日間実施していきます。
実社会と関わりながら自己の在り方生き方,社会の在り方を考える探究活動は,大学入試における志望校・学部・学科選択にも直結していくものであり,各教科・科目の学習意欲の向上にも繋げられることを考えると,大きな武器と言えるでしょう。つまり,学校組織としての探究活動の支援スキルを高めることは,進路指導力を高めることにも直結すると考えられます。よって,これからの学校,教師には,社会で起きている出来事や問題に今まで以上に目を向け,実社会との関わりの中で学校,教師としての在り方生き方,社会の在り方を考え,よりよい社会作りのための方策を自分自身で,さらには生徒とともに探究していく姿勢が求められていると言えます。まさに,教育の「転換点」と言えるでしょう。
≪参考資料≫
「総合的な探究の時間」の目標(学習指導要領解説 総合的な探究の時間編p11)
探究の見方・考え方を働かせ,横断的・総合的な学習を行うことを通して,自己の在り方生き方を考えながら,よりよく課題を発見し解決していくための資質・能力を次のとおり育成することを目指す。
① 探究の過程において,課題の発見と解決に必要な知識及び技能を身に付け,課題に関わる概念を形成し,探究の意義や価値を理解するようにする。
② 実社会や実生活と自己との関わりから問いを見いだし,自分で課題を立て,情報を集め,整理・分析して,まとめ・表現することができるようにする。
③ 探究に主体的・協働的に取り組むとともに,互いのよさを生かしながら,新たな価値を創造し,よりよい社会を実現しようとする態度を養う。