探究活動、それは未知なる扉をひらき続ける活動 ~「本物に触れる!一流に学べ!」~
校長 丸橋 覚
2004年8月19日から11日間、高崎女子高校と高崎高校の生徒125名とともにアメリカNASA研修に参加した。
当時、高崎女子高校と高崎高校は文部科学省のスーパーサイエンスハイスクール(SSH)を指定されており、高崎高校でSSHクラスの担任をしていた私も、この初めての海外研修の引率団の一員として加わった。
アメリカNASA研修開催のきっかけは、高崎高校SSH一期生に実施したアンケートで、訪問してみたい研究機関の第1位がNASAであったことだった。
研修の目的は、宇宙開発の最前線であるNASAで働く科学者・技術者と接することで、NASAをより身近な存在として捉えることと、世界の科学技術系大学の最先端であるマサチューセッツ工科大学(MIT)とハーバード大学で研修するものであり、主な研修場所は、アメリカヒューストンにあるジョンソン宇宙センターとオーランドにあるケネディー宇宙センター、そしてボストンにあるMIT、ハーバード大学の3カ所であった。
最初の訪問地、ヒューストンにあるジョンソン宇宙センターでは、人類初の月面着陸を指揮したアポロミッションコントロールセンターや宇宙飛行士の訓練用プール施設の見学を行った。研修2日目には、当時、ジョンソン宇宙センターで宇宙飛行士として訓練をしていた土井隆雄宇宙飛行士による講演が行われた。私も土井宇宙飛行士を目の前にしてお話をうかがい、宇宙飛行士の訓練の様子や今後の夢などをお聞きし、とてもワクワクしたことを覚えている。せっかくの機会なので、生徒には土井宇宙飛行士の講演の最後に行われる質疑応答で、土井宇宙飛行士に質問をするよう事前に話しておいた。質疑応答の時間となった途端、ほぼ全員の生徒が手を上げたのには驚いた。生徒に質問をするように促す必要はなかったことを改めて認識した経験であった。
この土井宇宙飛行士の講演での経験は、“本物に触れること”が持つ“底力”に気付かされた瞬間でもあったように思う。それ以来、これからの日本を背負っていく若者に“本物に触れる体験”をできるだけさせたいと思うようになり、様々な事業や研修で“本物に触れる体験”を組み込むように心がけている。
2つ目の訪問地である、フロリダ・オーランドにあるケネディー宇宙センターでは、月飛行用サターンⅤ型ロケット(本物であるが打ち上げられていない)の見学や、現在、国際宇宙ステーションで運用されている日本実験棟「きぼう」の打ち上げ前の実物を見学することができた。現地旅行社の方がJAXAの協力を得て特別に見学する許可をいただき実現できたものだ。この研修は、初めてのプログラムであったこともあり、出発2週間前になっても詳細の日程が伝えられず、直前まで不安であったが、結果的に土井宇宙飛行士の講演や日本実験棟「きぼう」の実物を見学する機会など、サプライズも多く、現地旅行社の方のチャレンジ精神も大いに学ぶものがあった。
最後の訪問地であるボストンのMITとハーバード大学では、日本人学生の多さに驚いた。この研修では、現地を訪問するだけでなく、研究者や学生さんとの交流をできるだけ多くプログラムしたいと考えていたが、計画当初ではMITやハーバード大学での研究者や学生さんとのコネクションがなく、ボストンにおける研修も直前まで計画が未定のままであった。インターネットで調べているうちに、ボストン日本人会という組織を知り、その伝手で十数名の学生さんにご協力をいただくことができた。ボストンでの研修では、MITとハーバード大学の学生さんとのディスカッションが実現し、学内案内をしていただいた後、班ごとに夕食をとりながら懇談の時間も設けることができた。
MITメディアラボの研究者にも講義をしていただいた。世界の最先端で活躍する研究者や学生さんとの交流を通して、どれも刺激的であり、学びが多く、ワクワクさせられる話ばかりであった。これまで経験したことのないような感動を与えてくれる研究者や学生さんに触れることを通して、“これが一流というものか”と思った記憶がある。
これらの経験から、「本物に触れる!」、「一流に学べ!」は私の座右の銘のひとつになった。ちなみに、私の座右の銘は「本一気狭(ほいきせ)謙(けん)信(しん)!」(本(ほ)物に触れる、一(い)流に学べ、気(き)長に持続せよ、狭(せ)い門より入れ、謙(けん)虚な姿勢、信(しん)頼される行動をとる)である。
現在、高女の皆さんは、探究活動において、自らテーマを決め、実際に校外に出て、社会課題に触れて探究活動を深める取組を進めていることと思う。3年生は、これから大学に進学し、さらに社会に出ると、毎日が探究活動であり、社会でも自ら探究を進める力を問われることになるはずである。
現2年生から、新しい学習指導要領が目指す教育が進められており、本校でもSAH(Student Agency High School)の指定を受けて、主体性を育てる教育を進めている。大学入試においても、知識を問う問題に加え、思考力を問う問題の割合が増えていると同時に、高校の3年間でどんな活動を行ったかを評価する総合型選抜入試が増え続けている。大学の先生や企業の経営者からも、主体的に行動でき、判断できる人やコミュニケーション能力を求める声を多く聞いており、今後、益々重要度が増していくことと思う。
私は、探究活動は、未知なる扉をひらき続ける活動だと考えている。
自分の最も興味あることを深掘りし、将来の職業を見据えた探究テーマを設定することが重要だ。探究の時間を、なんとなく調べ学習に終始するような時間の使い方ではもったいない。探究活動では、今、一番会いたい人に会いに行き、話を伺うことで、自分の新しい扉が開けてくると思う。勇気を出して一歩を踏み出して欲しい。ただ、一番会いたい人が必ずしも会ってくれるとは限らない。しかし、粘り強く、アポイントを取り続けてみて欲しい。
ボストンの研究者だけでなく、国内の研究者や経営者の方々などは、高校生からの依頼なら喜んで対応してくれる人が多いと思う。「数ある研究者や経営者の中から、よくぞ私を選んでアポイントを取ってくれましたね」と喜んでくれる人が多いと私は確信している。
よく、誰に会いに行けば良いか分からないという人がいるが、是非、“初めましてメール”を送ってみて欲しい。「初めまして、私は高崎女子高校の○○です。現在、○○ということについて探究しており、○○について悩んでいます。○○先生の研究を拝見し、私の探究テーマに沿っていると思いメールを送らせていただきました・・・。」
私も、数多くの“初めましてメール”を送った経験がある。断られることもあったが、快く引き受けてくれた人の方が多かったように思う。
高女の皆さんの熱意があれば、きっと対応してくれるはずである。
一歩を踏み出す勇気をもち、未知なる扉をひらき続けて欲しい。
そして、将来、自分が社会で活躍するようになったら、そのときの高校生からの依頼に応えて、恩返しをしてもらえたらうれしく思う。
私も毎日の活動が探究活動だと思っている。高崎女子高校の皆さん全員の主体性が成長し、全員の進路実現を願ってやみません。
皆さんの主体性に期待します。